6,郊外の邸宅にて
次の日の朝、ルルーディさんに会いに行くために早めに家を出た。
子どもの頃からよく遊びに行っていた、神官アスティオさんが住む郊外の邸宅へ。
朝ならきっとまだ家にいるだろう。
大きな門をくぐって前庭に入ると、同級生男子が大勢遊びに来ていた。
みんな昔からこの家に遊びに来ていた仲間ばかりだけど、いったい何してるんだろう?
みんなが集まっている先にいたのはアスティオさんではなく、 ルルーディさんだった。
大勢に話しかけられて困ったような顔をしながら、それでも一人一人に丁寧な対応をしていた。
こういった事に疎い私でもなんとなく理解できたぞ。
つまり恋人が欲しくて、彼女に話しかけてアピールしてるんだよね?
それにしてもルルーディさんはモテるんだなぁ。
確かに可愛いし、こんな大きな邸宅に住むお嬢様だし。
ぱっと見はヒラヒラのフワフワで、お上品そうだし。
元は王家の血筋っていうのもポイントが高いのかな。
でも本当の彼女は、結構おてんばで飾り気がなくて、全然気取った感じのない子なんだけど。
坑道で泥団子作ってドロドロになっても平気な顔で笑ってるようなワイルドな姿なんて、みんな知らないだろ?
って何でこんな張り合うみたいな事考えてるんだよ。
しかし、こんなに押し掛けたら迷惑じゃない?
いつまで経っても話が終わりそうになくて、彼女もそろそろ切り上げたそうに見えたので、取り巻いている奴らと彼女の間に割って入った。
そこまではよかったけど、そこから言葉が出てこない。
うーん、まず何を言えばいいのかな。
とりあえず天気の話でもしておこう。
話が途切れたので、集まっていた奴らもやっと解散したみたいだ。
そういえば昨日の事謝らなくちゃ。
そしたら彼女の方から先手を打って、仲良くなろうって切り出してきた。
そしてまた、私は頭が真っ白になって固まって断ってしまった…
だから何でこんなに緊張してるんだ!
5,成人式のあと
エルネア城の玉座の間で、成人式が行われた。
いよいよ今日から大人の仲間入りだ。
式のあと、控室でそれぞれ与えられた服に着替える。
私に支給された服は、同級生とは違って山岳兵の制服だ。
なんとなく他と違うことに恥ずかしさを感じながら手早く着替え、そそくさと広間へと戻った。
父さんから、式のあとはできるだけ多くの友人に声をかけてこいって教えられていた。
確かに挨拶は大事だけど、別に急ぐこともないと思うんだけど。
さっそく付き合いのあった男友達に声をかける。
んだけど、どうもみんな、女子とばかり話している気がする…
男子はみんな挨拶が済んだから、今度は女子に…と思ったところで気がついた。
女子の知り合い、少なすぎだ!
小さな頃は女の子が苦手だったし、少し大きくなってからは男友達とか山岳の人とばかり付き合ってきたからなぁ。
そうだ、1人だけ友だちになったんだっけ。
ルルーディさんはどこにいるんだろう?
周りを見まわすと、どこかに行っていたのか広間の入り口から入ってくる姿が目に入った。
近くには誰もいないようだし、さっそく挨拶してこよう。
「こんにちは」
振り向いた彼女は、みんなと同じ青い国民の服に身を包んでいた。
着ている服が違うだけで、急に別人になったみたいだ。
ヒラヒラっていうか、フワフワ?
ちょっと露出も多いし…目のやりどころが…
なんだか直視できない、でももっと話していたい気分。
その場の勢いで、釣りに誘った。
でも歩いてる時もうまく会話ができない。
釣り場についてからも、何を話したらいいのか分からなくて、釣りに夢中になってるフリをしていた。
なんでこんなに緊張してるんだろ?
その日の午後、彼女の方から
「もっと仲良くならない?今度一緒に探索に行こうよ!」
と申し込まれた。
キラキラした笑顔で見つめれて、頭の中が真っ白になって、思わず断ってしまった。
悪いことしたなぁ、怒ってないといいんだけど。
明日謝りに行って、こっちから仲良くなろうって言ってみよう。
4,5歳の頃のボク
ニーノさんが龍騎士になってから、山岳区にたくさんの人が来るようになった。
騒がしいのは好きじゃないけど、賑やかなのは嫌いじゃない。
大人になって、兵隊長を引き継いだらたくさんの人の前で戦うんだから、慣れておいたほうがいいよってパパが言うんだ。
龍騎士になる目標ができたから、前みたいに山岳兵になりたくないって気持ちはなくなったかな。
龍騎士になる!って宣言していたルルーディさんは、最近ニーノさんと仲良くなったみたいでよく遊びに来ている。
元々ニーノさんとは親戚みたいだから、アスティオさんもよく遊びに来ていたんだよね。
そういえばボクも最近ルルーディさんとよく話すようになった。
ちょっと前に友だちになったし、他の女の子よりも話しやすい気がする。
龍騎士を目指すライバルだからかな?
実はルルーディさんのご先祖様がブラッドレイ家の出身なんだって!
それってボク達遠い親戚って事だよね。
うん、だったら仲良くなれそうな気がする。
年が明けたらいよいよ成人式だ!
頑張って強くなって、龍騎士目指すぞー!
補足:
2代目の配偶者がブラッドレイ家第2子で、その子どもがそれぞれカランドロ本家と分家に入ったので親戚なのだ。
3,4歳の頃のボク②
今年は4年に一度のエルネア杯。
ボクのパパも出場したんだ。
山岳の選手はみんな大活躍、パパも頑張ったけど、優勝したのはカランドロ家のニーノさん。
白夜の日には、バグウェルが来て勇者と戦うんだ!
国中のみんなが見にきてくれて、大きな龍と戦うなんて凄いや!
ニーノさん、余裕で勝っちゃって、山岳初の龍騎士になったんだ。
カッコいいなぁ〜
ボクもいつか龍騎士になりたい。
今まで戦うなんて興味なかったけど、大人になったらエルネア杯に出て、勇者になって、バグウェルと戦うんだ!
奥の方から審判の仕事が終わったアスティオさんとルルーディさんがおしゃべりしながら歩いてきた。
「やあジェフリー、今日の試合は凄かったね。山岳はついに念願の龍騎士が生まれて、今日はお祭り騒ぎなんじゃないの?」
「うん、ニーノさんカッコよかった!いつかボクも龍騎士になるんだ!」
そしたらルルーディさんが、急に話に入ってきた。
「わたしも!わたしも龍騎士になりたい!」
「うーん、ルルのおばあちゃんは魔銃龍騎士だったから、頑張って強くなったらなれるかも知れないね。」
え!
じゃあルルーディさんはボクのライバルって事?
ボ、ボク負けないからね!
2,4歳の頃のボク①
神官のアスティオさんは、郊外の邸宅に家族と暮らしている。
ボクの家や噴水通りの友だちの家より広くて、絵とか水槽とか飾ってあってとっても綺麗だ。
最近は友だちと一緒に毎日遊びに行ってるんだ。
パパが言ってたけど、住むにはとってもお金が必要なんだって。
アスティオさんは子どもが大好きで、いっぱい遊びに来て走りまわっても大丈夫なように広いお家にしたんだって言ってた。
2階には本がいっぱいあって、時々読ませてもらうんだ。
家族にもちゃんと挨拶するよ。
アスティオさんの奥さんのコンチータさん、
1番上のアルトスさん。
同じ学年のルルーディさん。
1番下のフォス君はまだ赤ちゃん。
そう言えばルルーディさんは最近パパや山岳のおじさん達と仲がいいみたい。
山岳ファンなんだって。なんだろそれ?
ボクとも仲良くなりたいそうなんだけど、ボク…やっぱり女の子はちょっと苦手だ。
1,3歳の頃のボク
ボクはジェフリー、山岳ブラッドレイ家長男。
成人したら山岳兵になって、強くなってパパから山岳兵長の仕事を引き継いで、リーグ戦で戦ったり坑道の魔物を退治する仕事をする。
他の仕事はできない。
それがオキテなんだ。
でもボク、本当は山岳兵より神殿で働いてみたかったんだ。
山岳の子は奏士も神官もなれないんだって。
つまんないなぁ。
パパのおともだちに、とっても変わった神官さんがいるんだ。
昔は王子様で、農場の代表もしたことがあって、釣り名人で、チカラもとても強くて、魔物なんかヒョイっと倒しちゃうんだって。
凄い人なんだけど全然怖くなくて、話してるととっても面白いんだ。
ボクもいつか神官になれないか相談してみようかなぁ?
「やあ、ジェフリー。今日はちゃんと学校に行った?」
「アスティオさん!…ボク学校は苦手だよ…人がいっぱいいて騒がしいんだ。」
学校に行くと女の子がいっぱいいて、キャーキャー高い声で喋ってるから、あんまり授業は出てないんだ。勉強は好きだから、図書館で本を読んだりしてるけど。
「俺の娘もジェフリーと同じ歳なんだ、よかったら仲良くしてあげてよ。ちょっと変わってるけど、いい子だから。」
神官さんの子どもだったら少しは仲良くなれるかな…
今度遊びにおいでって誘ってもらったから、行ってみよう。